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始まりの音・Y


夜明け。
ひときしり泣いて落ち着いたヒトミは、昨夜の男の事を思いだしていた。
彼の最後に言った言葉、それを口に出す。
「き、きょう?…っ!!」
ヒトミは、頭を殴られるような痛みに襲われた。


差し出された手。
ソファーに座り笑う男の残像。
花瓶に生けてある青い花。
そして、テーブルに置かれた黒光りする
拳銃。
暗闇に包まれてゆく教会。


痛みが引く。
ヒトミは息を上げ、汗をかいていた。
「…最後の、あの教会?」
彼女には見覚えがあった。
幼いときからその教会のそばにいたから。
「あの街に行けば…いいの?」
自分でも誰に質問してるのか分からず、ヒトミは苦笑した。
ため息をつく。
「消し去られた記憶…か。」
ヒトミは、父の死からヒカリに拾われる少し前までの記憶に興味が無いわけではなかった。
ただ、どうしても関連する記憶が現れなかったのだ。
しかし、あの男の『桔梗をきみに』という言葉だけが、その頃の記憶に共鳴したように感じた。
「…5キロ先」
1日で行き帰れる距離。
ヒトミは立ち上がった。
窓から朝日が入ってくる。
ドアが1つ部屋にあったが、ヒトミは窓から外に出た。
西に歩いていこうとすると、後ろから声がする。
「ヒトミ。どこ、行くんだ?」
カズヤは壁にもたれかかって座っていた。
「あ…えと…散歩?」
「そんな嘘、通用しない。」
ヒトミが出てきた窓からも声がする。
「カイト…」
二人はヒトミの事を心配して、夜通し見張っていたのだった。
「どこに行くんだ?」
カズヤは再び言う。
「街に。私が小さいときに育った、街。」
「じゃぁ、俺たちも一緒だな!」
ノゾムが、眠たげにしているミライを引き連れて廃屋から出てくる。
ヒトミは笑った。
「…うん!」
「どっちに行くんだ?」
「西だよ、ノゾム。」
4人は歩き出す。

その背中に向かい、ヒトミは呟いた。
「ありがとう」
と。




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