始まりの音・X
どこかの廃屋の中。
一人の男が古びたソファーに座っていた。
彼は不敵に笑い、こっちを見てくる。
彼が何かを言う。
…何も聞こえない。
突然の暗闇。
私は見回す。
あぁ…
私は目を閉じているんだ…
目を開けよう。
洋風の住宅街。
町の人の笑顔。
街の真ん中にある噴水。
恋人たちが待ち合わせ。
街の端っこにある小さい公園。
友達たちの太陽のような笑顔。
街の自慢のおおきな鐘のある教会。
みんなが、お祈りをしに足を運ぶ。
顔を上げれば、街の人や両親の優しい笑顔。
見渡すと、活気あふれた笑顔の咲き誇る街。
あぁ…
やっぱり、あの戦争とかは夢だったんだ。
兵士の靴音と銃声に、爆音。
皆の悲鳴と怒号が飛び交う。
自分の手を引く両親。
追ってくる靴音。
銃声。
悲鳴。
笑い声。
叫び声。
三発の銃声。
母の傾く体。
頭上での爆音。
かばう父の手。
目を開ければ…
アカイ世界の中。
目を閉じれば、何も見えない。
こんな事は夢。
目を開けよう…
さっきの幸せが帰ってくる
ヒトミは目を覚ました。
そして、どちらも夢で、どちらも現実であることを再確認した。
自分の頬をつたう涙。
込みあがる嗚咽。
ただ、彼女は声を上げて泣くことは出来なかった。
自分の状況も分かっていた。
という理由もあるだろうが、ただ、強くありたいという願いがそうさせていたのかもしれない。
ヒトミは、ひざを抱え、涙が止まるまで泣き続けた。
誰も来ないことを祈って…
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