始まりの音・U
青い瞳の少女・瞳が耳をふさぎしゃがみ込んでいる。
それをいたわるように肩を抱く少年・海斗。
「夢!!いつまで光を待ってんだよ!!あいつは帰ってこない!」
夢という女に栗色の髪をした少年・望は叫んだ。
「そんなこといわないで、光にも色々あるのよ」
叫ぶ少年に夢は冷静に答えた。
「いつまでそんなこと言ってんだよ!もう1ヵ月もいないんだ!そろそろ居場所を変えないと!」
「わかってるわ…わかってる…」
夢はうつむき呟くように言った。
瞳はその喧騒から逃れようと、ココに来た当初を思い出していた。
青い瞳の少女は光の後ろに隠れながら、瓦礫でできた家に入った。
「夢、ただいま。」
「光!おかえりーって…どうしたの?その子」
「あぁ、拾ったんだよ。」
「拾ったって…ねぇ、名前は?」
「わからない。」
夢という女は光を困惑した表情で見つめる。
「記憶が無いわけではないみたいだ。けど…」
「けど?」
「人間、長い間名前を呼ばれなかったら忘れるみたいだ。」
「何、バカなこと言ってるのよ?・・・えーと、じゃぁ、いくつ?」
「いくつ…?」
「年、年齢よ。」
「それも、分からない」
「無駄だよ。僕も色々聞いたけど、両親のこと意外何も分からない。」
「両親の事??」
夢はそう言うと少女を見つめ、新たな質問をするために口を開く。
「お父さんと、お母さんは?」
「逃げてるときに、怖くなって戻ったら、お父さん、いっぱいのグンジンサンに囲まれて、いっぱいいっぱいうたれてた。お母さんは瓦礫の下敷きになった。」
少女は抑揚の無い声で答えた。
夢が口元を押さえかすれた声で言う。
「…ごめんね?」
「なにが?」
少女は純粋な目で夢を見つめ返す。
「夢、そんな事より、彼女に名前をあげよう?」
「えぇ、そうね。」
黙る二人が見つめるのは綺麗な青い瞳。
「この名前しかないわ。」
「そうだな。」
夢は青い瞳の少女に向かい笑顔で言う。
「貴方は今日から瞳。」
「ヒトミ?」
「そうだよ、君の名前は瞳だ。」
光が、地面に『瞳』と書く。
「これが、君の名前の漢字だよ。」
「ヒト…ミ?」
「そう、ひとみって読むの。」
「瞳…」
そのとき、初めて少女、いや、瞳の顔がほころんだ。
「瞳?」
海斗の呼びかけで瞳は現実の世界に引き戻されたと同時に、望の叫び声があたりに響く。
「・・・夢は、俺たちの命なんてどうでもいいのかよ!!!!」
望に漆黒の瞳を持つ少女・未来がすがりつく。
「望、やめて!夢は悪くないじゃない」
未来は泣きそうになりながら訴えた。
「…未来、俺だってこんなこと…」
望の言葉をさえぎり、背の高い少年・和弥が叫ぶ。
「もうココに居れそうにもないぞ!!夢!!!」
夢は、呆然として言う。
「…どうして?」
和弥は遠くの空を見て、呟いた。
「戦闘機が飛んでる。」
――― 爆発音。
飛び散る瓦礫の破片。
そして…
空から振る、黒い塊たち。
6人は走っていた、黒い塊から逃げるために。
しかしながら、無常にも黒い塊は彼らの上に落とされようとしていた。
和弥は舌打ちをし、5人に向かい叫んだ。
「瓦礫の下に隠れろ!」
と。
その瞬間、塊が飛行機から切り離された。
5人は隠れようとする。
この瞬間がなければ、運命の歯車は狂わずに動いていただろう。
歯車を狂わせたもの。
それは、小さな不幸であった。
少女が、青い瞳の彼女。瞳がこけてしまった。
ただ、それだけ。
それだけが運命の歯車を狂わせるきっかけとなった。
え?彼女がこけただけで、運命の歯車が狂うはずが無いって?
知りませんか?小さな不幸の後には大きな不幸も続くものだということを。
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